2-2 「対人スキル」の本当の意味を教えてくれる面接演習
思考力(概念化能力)を確認できる場所
アセスメントには、面接演習という1対1で実施される演習課題があります。「部下を説得する」というミッションを背負って部下役のコンサルタントに向き合うものの、想定外の抵抗に遭って苦難の10分間を強いられることになるので、アセスメントを受ける人にとっては、関門として認知されるようです。
至近距離で正対する相手から抵抗され、その中でミッションを果たすべく戦わなくてはいけないので、受けるストレスは相当なものになります。したがってストレス耐性を診断するための演習と位置付けられがちなのですが、私たちはこの面接演習を、被験者の思考力を高精度で確認できる絶好の場所としても捉えています。人が切羽詰まった時にどのような情報処理に進むのか…、それが面白いように浮かび上がるからです。
対人場面では、その重要性や深刻度が高ければ高いほど、相手が何を言いたくて何をして欲しいのかを正しく察知することが求められます。そのためには、相手の表出に対する感性を高め、できる限り大量の情報を集めて、相手の本質や本意にアプローチしなくてはなりません。
第3章の「マネジメント領域における目標設定プロセス」で示した、「情報を集積して対象の全体像をイメージし、本質の在り場所を知った上で目標設定に動く」という取り組みは、対人場面で最もわかりやすく求められるのです。
本質とは「相手が本当に言いたいこと」であり、「相手がして欲しいと願っていること」です。そこに正しく到達するためには、相手が発してくれる情報を積み上げて相手の正体(全体像)を認識する必要があります。しかしながら、面接演習の現場でそのプロセスが踏まれる様子を目にする機会は、残念ながら決して多くはありません。「1つの情報に即応して拙速的に動く」という方向に安易に舵を切る人が、やはりその場面でも圧倒的多数を占めてしまいます。
多くの人が飛びつく「1つの情報」は、部下役の言葉です。対応しやすいわかりやすい言葉だけに反応し、例によってその他の情報は無惨にも捨てられてしまいます。
相手がたくさん話してくれたのに、キャッチするのは1つの言葉だけ!
その言葉に自分のルールや通念を絡めて、執拗に働きかける!
表情や動作などのいわゆる「非言語情報」には、一切向き合わない!
面接演習の現場では、そんな取り組みを見せる人たちが主流となります。自分の状況や思いを必死に伝えようとしても、自分が発信した情報のほとんどがスルーされてしまう部下役が、時々かわいそうになります。
わかってもらえなかった
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面接演習では「相手を説得して今日のうちに合意を取り付ける」ことがミッションになるので、被験者は「これをやってくれないか」「こうなってくれないか」というような依頼を重ねることになります。
上司と部下の関係なのですから「これをやれ」「こうなれ」でもいいのかも知れませんが、このご時世ですから、そんな強者にお目にかかることはほとんどありません。皆さん丁寧かつ穏やかに語りかけてくれます。
被験者は、相手(部下役)に「はい」と言わせることを目指して説得を重ねますが、「はい」と言ったら演習が終わってしまうので、部下役は最後まで抵抗を緩めません。と言うより、部下役は設定を自分の中に叩き込み、役になりきっているので、相手の説得に押し切られないように本気で断り続けるのです。
そもそも部下役には、その依頼を飲めない自分なりの理由があります。自分の性格の問題、キャリア志向、心の問題、価値観、その他、今の自分ではどうしようもない理由があるので、部下役はそれを相手に伝えようと必死に言葉を紡ぎます。
部下役は、「なんとかわかって欲しい」という願いを込めて、時には1分近く語ります。するとほとんどの人が、しっかりと向き合う体を作ってくれます。頷きや相槌も欠かしません。「少しわかってくれたかな」と安堵する部下役の心中が窺われます。でも話し終わると間髪入れずにこう言われてしまいます。
「急に言われたからびっくりするよね」
「初めてのことだから不安だよね。僕たちがフォローするから」
時間をかけて発した大事なことが、そこには一切反映されていません。きっと大部分が切り捨てられて「できません」「私には無理です」という言葉だけに反応されてしまったのでしょう。そして、「できない→初めてのことだから」というその人の中の勝手なルールが運用されてしまったのでしょう。
「少しは聞いてくれているような気がしたのに、今回もまったくわかってもらえなかった」 部下役には、徒労感だけが残ります。
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対人テクニックに頼る人たち
大学生からベテラン企業人まで、面接演習の場ではほとんどの人が紳士的で、相手ときちんと正対し、きれいな傾聴姿勢を作ることができます。穏やかな笑みを浮かべ、相槌や頷きなどの反応行動も上手で、多くの人が対人場面での成熟した振る舞い方(テクニック)をなぞろうとしていることがわかります。
しかし、いくら「あなたに向き合っていますよ」「聴いていますよ」という表現を重ねたところで、相手の一番大事にしている部分を共有できないのでは、その相手を満足させることはできません。言葉から表情や行動などの非言語情報に至るまで、相手が発する情報を積み上げていかないと、相手の正体(全体像)に心を寄せることはできないのです。
1つの情報に即応して拙速的に動く人に対する相手の印象は、いくら成熟した対人テクニックが駆使されたとしても、「わかってもらえなかった」に集約されます。自分がせっかく一生懸命提供した情報をあっさり捨ててしまう人に対して好感を抱くわけが無く、間違ってもそこに信頼感は生まれません。
日本人は「対人スキル」という言葉を好みます。そして、そのスキルを高めたいと願う人の多くが、自分の対人テクニックの強化を図ります。洗練された敬語、自然で巧みなアイスブレイク、常に共感の姿勢を示す反応行動、等々。経験を積めばそれを実践することに慣れてくるので、誰もが徐々に自分の対人テクニックへの信頼を深め、そしていつしかそこに依存が生じます。
しかしながら、その対人テクニックに頼って一生懸命自分の言動を整えたところで、相手を理解する思考(概念化)プロセスを省いている限り、その相手から信頼を得ることはできません。対人スキルとは、他者との良好な人間関係を築くために求められます。表面的な交流で済まされるような場合はともかくとして、相手の内面に踏み込まなくてはいけない対人場面においては、いかなる対人テクニックも「本物の対人スキル」とは別次元におかれなくてはいけないでしょう。
対人スキル = 思考力(概念化能力)
対人場面で最も求められるものは、対人テクニックではありません。相手を理解する力、すなわち思考力です。相手が発してくれる情報を可能な限り漏れなく拾って相手の「全体像」を組み上げていくには、それなりの労力と時間が必要になりますが、そこで汗をかかないと相手と同じ土俵に乗ることはできないのです。 面接演習の現場では、「次の準備」に心が忙しい状態で相手の話に向き合う人が後を絶ちません。「自分が次に何を言おうか」「これからどのように話を進めようか」などとあれこれ考えながら自分の出番を待ち、相手が話し終わるや否や準備したものを勢いよく投げかける… これをやってしまうと相手は必ず無力感や疲弊感を抱くことになり、相手との心理的距離が生まれます。
相手の話が終わってすぐに口を開くということは、相手の出した情報をろくに処理せず捨ててしまったということ。相手はそこを見逃しません。自分の定めた戦術を相手に邪魔されず完遂できるように、相手との会話に間が生まれないように、そして、早く自分のやりやすい形に持ち込めるように、多く人が相手のたった一言から自分のきっかけを作ろうとします。
しかし、そのすべてが相手にとっては迷惑なことであり、利他の心とは無縁の自己中心的な取り組みと言えるでしょう。面接演習で頻発されるこの利己的な行動は、きっと世の中の仕事場でも、そして仕事以外の場所でも、いたるところで当たり前のように発散されているのだと思います。
▸ 知識が求められているなら即応でもいいけど、思考(概念化)が求められる質の高い対人場面になればなるほど、相手の話が終わってから自分が話し始めるまでの時間が必要なのですよ。すぐ言葉を出すのは失礼ですよ。
▸ 相手が発する情報には漏れなく向き合い、非言語情報を含めた多様な情報から相手の正体を知る努力をしてください。それをさぼって華麗な対人テクニックを繰り出しても、それは相手にとって鬱陶しいものにしかなりません。
▸ 皆さんが大事にしている対人テクニックは、本当の意味での対人スキルではありません。皆さんに求められている対人スキルは、思考力(概念化能力)です!
▸ 対人場面における生産性の有無は、あなたではなく相手が決めるのですよ!
研修やインターンの場で、いつも私は一生懸命伝えます。
「そんなこと、ここでしか教えてくれないんだよ」と思うと、ついついしつこくなってしまいます。
【第6回】へつづく