真面目な人を採用したい会社への処方箋

最近、経営者の会合などで「とにかく真面目な人を採りたい」という声に接することが急に増えてきました。きっと真面目な人を採用できていないのでしょう。私は採用アセスメントで大量の「真面目そうに振舞ってはいるが実はとても不真面目な人」を目にする日々を過ごしているので、さもありなんと思います。


中には、「そんなに頭が良くなくても、マネジメントなんかできなくても、真面目でさえあればいいから」などというとんでもないことを口にする人もいて困ったものです。


「今、本当に真面目と言える人がどれだけ少ないのか…知らないよね」
「私たちがいつもどんなに大変な思いをして真面目な人を探しているのか…知るはずないよね」
「真面目であることは、思考力やマネジメント能力を活性化させるための前提なんだけど…ね」


などと、ついついやさくれてしまいます。


他人に興味が無く、他人が決めたことにも興味が無く、自分の欲望にだけ忠実な人がやけに増えている今において、真面目な人の採用にこだわることにはとても重要な意味があると思います。でも、その目的を果たすための術を知る人は少ないでしょう。そもそも真面目な人と言ってはみても、ふわっとし過ぎていて採用チームがその実体を共有しにくいのではないでしょうか。


そこで、真面目な人を採りたいと願う真面目な経営者や人事関係者のために、私たちが携える方法論を少しだけ公開しようと思います。「真面目」ということについて真面目に書きますので、きっとまたあまり面白くない文章になると思いますが、お許しくださいませ。






採用選考に臨むどの企業も、真面目で信頼できる人が欲しいと願っています。会社によって様々な採用基準が掲げられているとは思いますが、真面目で信頼できることは組織で働く上での大前提であり、不真面目で信頼できない人を欲しがる会社はありません。当たり前すぎてあらためて口にするのが恥ずかしくなるようなこの要件は、採用に取り組むすべての企業にとって極めて集約的な採用基準となるべきだと思います。


真面目で信頼できる人は、責任感と持続性が高いレベルで維持されます。責任感の強い人は他者に対して生じた責任を背負うことができ、持続性の高い人はその責任を果たすために熱量を高め続けることができます。どちらも他者から課せられたり委ねられたりしたものを意識に留め置いて動く人に備わっている能力であり、「人のために」という利他的な精神性を持たない自己中心的な人の中では活性化しにくい能力であると言えるでしょう。


健全な人材を確保するために、そして応募者の自己中心性を見抜くために、採用選考の場では応募者の責任感と持続性に着目することが求められます。採用面接に臨む面接官の方々も、「ここで応募者の真面目さを確認したい!」と意気込んでいらっしゃるのではないでしょうか。しかしながら残念なことに、採用面接で応募者の責任感や持続性を正しく見極めることは、めちゃくちゃ難しいのです。



まず、採用されたい応募者が責任感に欠ける自分を表現するはずがありません。応募者の体験談などを引き出してその人の責任感のレベルを確認しようとする面接官の気持ちはわかりますが、「今何を言えば面接官から評価されるか」「何を言ったらいけないか」を瞬時に判断する応募者のシミュレーション能力や情報操作能力の高さは、面接官の想定を超えることが多いのではないでしょうか。


そして、時間が経っても責任感を維持して頑張れるかどうかの尺度である持続性を確認するには、相応の時間が必要です。それを測ろうとするなら、限られた時間しか与えられない面接という選考手段はあまりにも無力と言えるでしょう。採用されるために責任感のある人を演じる応募者でも、採用面接の時間くらいはそのテンションを保つことができるのですから。


それでは、どうすればよいのか…?



私たちがアセスメントで被験者の責任感や持続力を知ろうとする際には、その人から「自己中心的な人によく観られる行動」がどのくらい滲み出るかに着目します。そして、被験者が話したことや書いたものに反応し「この人は責任感がある」「持続力がありそう」などと思い込むことだけは絶対にしないようにいつも気をつけています。


「発信されたアウトプットの内容に肯定的に反応してはいけない」というのは、責任感や持続性の診断に限らず、すべての能力に向き合う際に求められるアセスメントの鉄則なのですが、採用選考で応募者の真面目さにアプローチする際には特に強く自制が求められます。採用選考に臨む応募者のすべてが「自分を真面目に見せなくてはいけない」と考え、真面目な自分を言葉や文章で表現することに必死になっているからです。


「応募者が見せたがっている情報に食いつかず、応募者が無意識に発する行動情報に向き合ってください」いつも私がアセッサー養成講座の生徒さんに口を酸っぱくして言っていることですが、これはアセスメントをする時に限らず、人を観て人を知ろうとする人すべてに求められる基本姿勢です。


アセスメントは被験者の普段の行動を凝縮して露出させるしくみを持つので、我々アセッサーの目には、前述の「自己中心的な人によく観られる行動」が次々と飛び込んくるのですが、アセスメントを使わない一般の採用選考で獲得できる情報はそれほど多くはありません。ただそれでも、余計な情報に踊らされず応募者の行動に視点を絞っていれば、合否の判断に使える行動情報を拾えるチャンスが出てきます。



また、応募者の持続性を測るには、その人が「頑張る自分」をずっと維持できるかどうかを見極めなくてはならないので、それなりの観察時間が必要です。採用面接だけで応募者を判断しようとせず、応募者が最初にコンタクトしてきた時から合否の判断を下すまでのすべての時間を人物判断のための場と考えてください。


利他的な自分を演じる自己中心的な人は、持続性に欠け自己制御に使うエネルギーに限りがあるため、時間の経過と共に必ず「他者の都合や心情への配慮を欠いた、自分の欲望を満たすための行動」を無意識的に発出します。それを拾えるだけの機会と時間とマンパワーを確保できれば、「実は不真面目な人」を抽出する精度は高まります。


例えば、「応募者とのメールのやりとり」などは、自己中心的な無意識的行動が溢れ出やすいステージなので、採用担当者は感性を高めて応募者の行動の綻びをキャッチしなくてはいけません。メールの内容は応募者にとって「見せるためのもの」ですが、メールを送るタイミングは無意識のうちに習慣を映すことが多いので、返信時期が不安定な応募者には厳しい目を向けるべきでしょう。


応募者ひとりずつの行動を長きわたって追い続けなくてはならず、選考のステージごとに採用担当者が変わる場合には十分な情報共有が欠かせないので、採用選考を担当される皆さんの負担はどうしても大きくなってしまいます。でも、これを避けたのでは、応募者の内面に向き合う採用選考を具現化することはできません。特に真面目な人の獲得を強く願う会社は、ここを頑張って欲しいと思います。



それでは、真面目な人を確保したい採用関係者に注視して欲しい「一般の採用選考でも観察できる自己中心的な人に多い行動」を、いくつか紹介しましょう。どれも自分の欲望を満たすことを目的とした行動であり、自分の置かれた立場や与えられた前提や他人の利害と心情などが意識から離れてしまう人の行動です。責任感や持続性に優れる人はまずこのような行動を見せません。応募者が語る内容に惑わされず、時間をかけてこれらの行動を拾うことに注力すれば、消去法的に本当に真面目な人が浮かび上がります。


☑ 説明会や選考会に集合時間よりも15分以上早く来る
☞「とりあえず早く行って自分が安心したい」という欲望を満たすことを優先させ、準備する人や受け入れる人の都合などお構いなしの、自己中心的な人である可能性が高い。

☑ 説明会が終わって退出する参加者でごった返す中、担当社員を捕まえ質問攻めにする
☞「前向きな人」と評価されがちだが、自分以外の大勢の応募者に気を配らなくてはいけない人の都合より自分の欲望を優先させる「時間泥棒」である可能性が高い。

☑ メール返信のタイミングが不安定で、長く待たされることもある
☞ 返信を待つ人の都合や心情に興味が無く、自分の都合や感情によって返信のタイミングが決まる。仕事に注ぐ熱量が不安定で、信頼に欠ける人である可能性が高い。

☑ 話が長くなり、主旨や論旨がよくわからなくなる
☞ 「人に伝えること」よりも「話したいという自分の欲望」を優先させる人は、着地点を見定めずに話し出すので、話が冗長で意味不明になりやすい。 

☑ 思いついたことを発散的に話す
☞ 自己満足を充たすためだけに動く人は、思いついたことがあると前提や状況には目もくれずに自分都合で発信し、収束の労を取らずに言いっ放しとなることが多い。

☑ グループワークなどで全体に向けて働きかけず、「もごもご」「ぼそぼそ」と話す
☞ 「全体に向けて発信する」という集団場面での前提を軽んじ、精神的に楽な取り組みを安易に選択する人は、自己中心的であることが多い。

☑ 気持ちよさそうに(陶酔感を見せながら)、それっぽいことを滔々と話す
☞ 自己愛が強くなり過ぎると、自己顕示欲や承認欲求の充足を目的に行動するようになる。自分に関すること以外に興味を持てない人である可能性が大きい。

☑ ふわふわした理想論や抽象論を語ることを好み、具体論に進むことを嫌う
☞ 知的好奇心や自己顕示欲を満たすことを好む反面、実体のある成果を求めて自らが汗をかくことは嫌う、任務に不誠実な人である可能性が高い。

☑ 時間が経つにつれて姿勢がだらしなくなる
☞ 真剣に取り組む姿勢を長時間維持することができず、自己制御が破綻して姿勢が崩れる人は、他者への責任を背負っていないからであると考えられる。


まだまだ他にもたくさんありますが、前述のようにアセスメントのしくみの中でないとあまり出現しない行動も多いので、これくらいにしておきます。ちなみに、どれかひとつをキャッチしたからと言って、その人を「自己中心的」「不真面目」と決めつけることはできません。これらの同じ原因を持つ行動を2つ3つと増やし、「点を繋いで線にする」ことによって、診断の精度が高まります。


繰り返しになりますが、これらはすべて他者のことを考えず、自分の目的だけのために垂れ流される行動です。ひとつひとつの公式をただ覚えるのではなく、「この人は何を目的に動いているのだろうか?」と考えながら応募者に向き合うようにすることで、自分の眼力を格段に強化することができるのではないでしょうか。



最後に一つ付け加えておきます。


冒頭で、「そんなに頭が良くなくても、マネジメントなんかできなくても、真面目でさえあればいいから」という声があることに触れました。「真面目であることは精神性の問題であり、知性とは別の領域」というような考え方があるのでしょう。


しかし、それは大きな間違いです。人の思考プロセスは対象に粘り強く向き合うことからスタートします。何らかの責任を背負って持続的に情報に接することができる人だけが、思考を活性化させマネジメント領域で躍動することができるのですから、「真面目であること」は間違いなく思考力やマネジメント能力の前提となります。



「真面目な奴はつまらんから」などと言っている人は、「真面目」の持つ本当の意味を誤認しています。責任感と持続性の持ち主は、他人思いの優しい、そして頭もいい、いい奴なんです。だから、採用選考に臨む方は、「真面目であること」を安心して集約的採用基準に押し上げてくださいね。

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