今年度は昨年度より多くの大学生をアセスメントしました。そしてそれに比例するように、ある事象が顧客各社の採用担当者から報告される頻度も高まっています。
それは、「採用アセスメントで次に進めなかった学生が、選ばれなかった理由を問い合わせてくる」という掟破りの行動です。十年前には驚きをもって受け止められたこの行動が、最近はそのような報告が日常茶飯事になりつつあることを残念に思います。
このような問い合わせは、学生本人から直接届くものもあれば、新卒人材紹介会社の担当者が代弁してくる場合もあります。どちらの場合も、「当然の権利でしょ」のような態度でアプローチしてくることがほとんどで、恐縮や遠慮は微塵も感じられないようです。もっとも恐縮や遠慮のような感情を持てる人なら、そんなこと聞いてくるはずが無いわけですが。
このようなことを言ってくる応募者には絶対的な共通点があります。
「アセスメントで自己中心的(自己充足的な行動が顕著に観察された)と診断された人である」ということです。
❢ 採用は「応募者は選考の結果を受け入れなくてはいけない」という前提の下で行われる。
❢ 人を採用する企業には、不採用になった応募者にその理由を説明する義務も責任も無い。
❢ それらを問い合わせることで、多かれ少なかれ先方企業に迷惑がかかる。
これらの社会的常識やルールよりも自分の欲望や都合を優先させてしまう人が、「落とされた理由を教えろ」などと平気で言ってきます。他者の都合や利害や立場や心情などに心を寄せることのできる人は、自分の心を制御することができるので、そのような行動に出ることはまずありません。
「理由を教えろ」の次には、こんなセリフもついてきます。
「今後の参考にしたいので」
なぜ貴方の「参考」のために会社の貴重な時間と労力を使わなくてはいけないのでしょう。
「自分に少しでも関わった人は自分のために何かをしてくれて当然」とでも思っているのでしょうか。
このような「問い合わせ」を受けた経営者の中には、その行動を「わが社への愛情」や「熱い思い」と受け取ってしまう方が少なからずいらっしゃいます。これが非常に危険です。そのような応募者の多くは、おそらく「自分が大好き」で「自分の利害にしか興味を持てない」という特性の持ち主です。応募した会社への愛情や思いが存在するとは考えにくく、あるのは「知りたい」「入りたい」という自分の欲望への執着だけなのだと思います。
採用アセスメント後に不採用通知を出した応募者から「この会社にどうしても入りたいのでもう一度だけ試験を受けさせて欲しい」とか「契約社員でもいいからここで働かせてほしい」のようなことを言われ、「その熱意を買おう」ということになって採用を決めてしまった経営者が、過去に何人かいらっしゃいました。でも、私の知る限り、良い結果になった例はありません。一年も経たないうちにあまり良くない形で辞めてしまったケースもありました。
極めて自己中心的な行動に利他的な匂いを含ませるのが上手い人がいます。その働きかけは、経営者や採用関係者の健全な承認欲求や情緒的な部分に忍び寄って、その人たちの合理的な判断力を麻痺させてしまう魔力を有します。
残念ながら、年々そのような人が増えてくる実感があります。
経営者の「いつでも物事の原理原則に立ち返ることができる力」が問われます。