各社で延期になっていた採用アセスメントが、六月に入るとすぐに再開されました。大好きなアセッサー養成の仕事を再開できる喜びが高まる一方、私は少しばかりの不安を抱えていました。今年の夏は、「マスクをした応募者をアセスメントする」という前代未聞のテーマと向き合うことになったからです。アセッサーの仕事を始めてから二十数年になりますが、マスクをした人をアセスメントするのは初めてです。アセスメントでは、「人が何を言ったか」ではなく「人がどう動いたか」が観察の対象となります。表情の変化や顔の筋肉の動きなどは特に重要な情報なのに、それが失われてしまうとアセスメントはどうなってしまうのか。
不安は的中しました。「マスクで顔の半分が隠されると、情報も半分になるよね」と安易に考えていましたが、失われた情報は、半分どころではありませんでした。心に問題を抱える人がアセスメントの場に臨むと、自分が抱える弱さを隠そうとして防衛的になり、それが顔に出ます。そのような人の顔つきや表情の変化は、見る人に違和感や不快感を与えることが多いので、アセッサーは自分の感情にも正直になることが求められます。ところがマスクありのアセスメントが始まると、応募者の顔から負の感情を抱く場面が極端に減ってしまい、その結果、他の視点を強化する必要に迫られました。「心の弱さ」などのリスク要因は顔の下半分に反映されやすいのだということを、実感として再認識しました。
欧米人は日本人よりもマスクを嫌がるようですが、「マスクで人の顔が見えないと怖いから」と考える人が多いそうです。新型コロナ禍では「マスクをあまり嫌がらない」という日本の文化が大いに奏功しましたが、その背景に「人に向き合わない文化」もあったのだとしたらちょっと悲しいですね。
「人に向き合わない」と言えば、一度も応募者と会うことなくリモートのみで内定を出した新卒採用企業が少なくないそうです。会社を守るためにお金と時間を使って必死に採用アセスメントを繰り返している会社の経営者にしてみると、「なぜそんなことができるのか」がどうしても理解できないようで、複数の社長さんからこんなことを言われました。
「その結果がいったいどうなるのか、ぜひ検証記事を書いてくださいよ」
私は即答しました。
「そのような会社は、これまでも応募者とそれほど真剣には向き合わず、応募者の観るべきところをしっかり観てこなかったはずだから、結果は何も変わらないと思います」