╂ 処方箋の解説 ┛ おわりに(前編)

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オンライン採用選考

新型コロナ禍で、今年の新卒採用はオンライン説明会が主流となっています。さらに選考面接までリモートで実施する会社も増え、中には最終面接まですべての選考プロセスをオンラインでやってしまう会社もあるようです。人の行動を観ることを仕事にしている私たちとしては、応募者と一度も会うことなく採用してしまうなんて信じられないことなのですが、世の中の流れが確実に「非対面」に向かっていることは間違いありません。

 

ネットメディアなどでは、「オンライン選考こそ唯一無二にして最高の対応策」「これからはオンライン採用を準備でき実施できる企業でなければならず、それができない会社はダメな会社である」「これを好機と捉えてアフターコロナにおいてオンライン採用を推進すべき」などという論調が目立ちます。そして、「未だに対面面接をやっている会社なんて、きっとリスクマネジメントの意識に欠ける会社だから行きたくない」などという学生の声が紹介されたりもしています。

 

もちろん、感染防止対策の徹底が何よりも求められる非常事態においては、そこで求められる対策に最優先で取り組むことが企業の責務だと思います。今、新卒採用の選考プロセスがオンライン化されるのは自然な流れでしょう。しかし、その流れの中で、そこに必ず発生する大きなリスクを懸念する空気があまり伝わってこないのが気になります。

 

採用選考で応募者に本気で向き合おうとしてきた企業ならば、オンライン選考でそれができなくなることを大きなリスクと考えるはずであり、自分たちの大切にしてきたものと感染防止対策との間での折り合いの付け方にとても悩むと思うのです。でも世の中のどれだけの企業がそんな葛藤を抱えているのでしょうか。私には、何の不安も抱かず何の躊躇もなく我先にとオンライン選考に突っ走る企業が多いような気がしてなりません。

 

はっきり言って、オンラインで面接をやるようになったら、そこで応募者を見極めようとするのは諦めた方がいいでしょう。これまで何度も述べてきましたが、採用選考で応募者を見極めたければ、応募者の発言内容に惑わされず応募者が無意識の中で表出する非言語情報に視点を絞らなくてはいけません。対面の面接においてでさえ、かなりの意識と力量を要する取り組みなのに、応募者がからだ全体で示す細かい行動やわずかな表情の変化、そして応募者が醸し出す空気感などを画面越しにキャッチすることなどできるはずがありません。オンライン面接では応募者の本質と向き合えないことなど、誰もが薄々わかっているのだと思います。

 

人に向き合わない文化

多くの会社が、これだけ潔く、そして躊躇なく、採用プロセスのオンライン化に舵を切ることができてしまうのは、採用現場に「採用面接では人を見極められない」「人なんて採ってみなければわからない」といった諦めの空気があるからなのかもしれません。もともと採用選考プロセスを応募者の意思や経歴情報を確認する場と位置付けていて、応募者を見極めることにはそれほど本気でない会社も少なからずあるような気がします。

 

いずれにしても、これまで採用選考で応募者に向き合うことにそれほど価値を感じていなかったから、ゆえにオンライン化で失うものが少ないから、「最終面接までオンライン化」にそれほど不安や恐怖を感じないのでしょう。

 

もしかしたら、対面面接を維持しても、オンライン面接に移行しても、結果はそれほど変わらないという現実があるのかもしれません。でも、応募者に一生懸命向き合った結果思うような結果が得られなかった会社と、応募者と向き合うことにはなから興味を持たない会社との差は果てしなく大きいと思います。応募者に向き合う意志を持たない経営者は、本質的に人に向き合うことに興味を持たない人であることが多く、そのような経営者が率いる会社には「人に向き合わない文化」が根付いてしまっていることが多いからです。

 

採用選考で応募者に向き合わない云々は氷山の一角に過ぎず、社内のいたるところで、「効率化」の旗印のもと、その悲しい文化が負の生産性を生んでしまっているはずです。わが国では効率性と合理性を同一視しがちな傾向がありますが、合理性とはあくまでも「理にかなっている」という意味です。微視的に無駄と思えるもの中には無駄でないものが数多く含まれます。長い目で見たら理にかなっていない「合理性を欠く効率化」がまかり通ってしまうことのリスクを、もっと多くの人が認識すべきではないでしょうか。仕事はいかなる場合でも人を介して進み、生産性を左右するのは人の属性なのですから、人と向き合わない経営に真の合理性が宿ることはありません。

 

人に向き合う機会を手放せない経営者

私たちのお客様の多くが、内製化された採用アセスメントという行動分析手法を使って採用選考を実施しています。その中の何社かは、オンライン説明会を実施しており、「これまでより広いエリアから学生がコンタクトしてくれるようになった」というベネフィットの報告もいただいています。しかし、採用アセスメントを中止したり、採用面接のオンライン化に舵を切ったりした会社は、一社もありません。

 

緊急事態宣言の発令中は、もちろんどのお客様もすべての対面選考を控えていましたが、解除後を睨んだ安全運営の準備には余念がありませんでした。私たちも感染対策のガイドラインを作って採用アセスメントを実施するお客様と共有しました。応募者間のソーシャルディスタンスが維持される人数設定、応募者が混雑時に公共交通機関を使わなくていいような実施時間の設定、そしてアセッサーアセッシー双方のマスク着用など、採用アセスメントの効率や精度への多少の妥協を余儀なくさせる施策が並びます。

 

正直大変なことも多いのですが、それでも各社の経営者が採用アセスメントや対面面接へのこだわりを捨てることはありませんでした。誰もが口をそろえておっしゃいます。「人を観ないで採用するなんでとんでもない」人の問題に苦労し人の問題に傷ついた結果、人と向き合うのことの重要さを知るに至った経営者が、応募者に向き合う機会を簡単に手放すはずがないのです。

 

「感染防止対策」という応募者の安全を守るためのテーマと、「応募者の見極め」という会社の健全性を守るためのテーマはどちらも同じくらい大切であるはずです。だからこれからの企業にはこの二つを折り合わせる努力が求められます。採用プロセスのオンライン化に向かう会社の中に、非対面採用のリスクを認識し葛藤した上で苦渋の選択に至った会社がどのくらいあるのか、とても気になるところです。

(後編に続きます)

東京の世田谷に生まれ(昭和35年)鎌倉に育ちながら、高校卒業後に関西へ流れ、大学卒業時には立派な関西弁を話せるまでに成長する。大学で体育会ラグビー部に足を踏み入れるも、タックルが出来なくて干され、徹夜のバイトが監督にばれて干され、と、「なんちゃってラガー」への道をまっしぐら。4年生でやっと公式戦への出場がかない、初出場の日の前夜は、ジャージーを抱いて泣きながら寝た。卒業後に入った商社で、早速、語学難民となり、「このまま日本に置いておいてもこいつは英語を覚えない」と当時の事業部長に判断されて、入社後1年も経たないうちに香港の現地法人に飛ばされる。現地の英国人達とプレーする中でようやく面白くなり始めたラグビーの合間に仕事も少しだけ頑張る、という充実の日々を送り、バブルもはじけた平成2年の春に5年間の任期を終えて帰国。その後、いわゆる大企業の海外部門を転々とするが、会社と仕事が肌に合わず、日に日に心が萎んだ。ついに重度の抑うつ状態にまで陥ってしまったが、そこに至ってようやく「自分の強みは本当に『国際』『語学』なのか?」「本当に自分の良さを活かせる仕事は何なのか?」というテーマに、正面から向き合うことになる。「世間からの評価」への執着を断ち切り、自分の価値観に正直になって新たなフィールドを選んでからは、心の元気を取り戻し今に至る。37歳の時に入社した人事系のコンサルティング会社でアセスメントセンターに出会って惚れ込み、これを生涯の仕事とすることを決意。39歳の時に今の会社を設立した。歳をとっても痛くて苦しいことが大好きな「変なおじさんたち」が集う中年ラグビーチーム(不惑倶楽部)に所属していたが、50を前にして捻挫をこじらせ距骨壊死というややこしい状態に陥って離脱。10年間手術を公言し続けるも諸事情で実現せず「切る切る詐欺」と揶揄されてきたが、還暦を直前に控えた2019年の暮れに突如人口距骨への部品交換を決行した。「これでラグビーもゴルフもばっちりだぜ!」と、元々の技量と加齢という現実を忘れて妄想中。

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