╂ 処方箋の解説 ⓴ ┛ 応募者の思考力を知る(中編) 

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思考力を見極めるための行動分析手法

応募者の発言内容に無関心になれたら、そこでやっと行動分析に集中できる心の環境が整います。「思考力を見極める」という重大なテーマに直面した人が、具体的にはどのような行動を捉え、どのような情報処理を行えばよいのかを簡単に述べていきます。

 

思考力を見極めるための行動分析の方法は二通りあります。ひとつは、「思考力に欠ける人は精神的自立性に欠ける」という因果関係を利用する方法です。精神的に自立しない人特有の行動を頭に置いて応募者の行動を観察し、それらの行動を見せない人に思考人の可能性を見出します。もうひとつは、「思考力の高い人によく見られる行動」をダイレクトに探す方法ですが、前述のように、求める能力を期待して探すと前のめりになって論理誤差を招きやすくなるので、いきなりこのやり方に頼るのは危険です。まずは前者によってリスクマネジメントを実践し、後者の視点はあくまで補完的に使われるべきだと思います。

 

リスクマネジメントを重視した行動分析

                        
思考は、誰にも何にも依存せず自力で複雑な情報処理を粛々と進める取り組みなので、相応のエネルギーと集中力を必要とします。心に不安や心配事があったり他に気を取られることがあったりする時は、思考しようと思っても、なかなか落ち着いて対象となる情報に向き合うことができませんが、その状態を常に抱えているのが、精神的に自立しない人です。

 

精神的に自立しない人は、自己執着が強くいつも心が落ち着かないので、向き合うべき対象に向き合えず、思考どころではありません。逆に、精神的に自立している人は、思考が必要な場面で雑念に邪魔されること無く自然に対象に向き合い、情報の集積に動きます。つまり思考は精神的な自立を前提とする取り組みであり、「思考できない人は精神的に自立していない人である」ということになります。

 

だから私たちは、応募者の思考力を知りたい時には、まずその応募者が精神的に自立しているか否かを知ろうとします。精神的に自立しない人は、自己執着から生まれる特有な行動を見せてくれます。(⓭のチェックリストをご参照ください) その多くは、その人の心をそのまま映す行動なので、行動分析に使う情報としての信頼性は高いと言えるでしょう。私たちは、これらの行動を見せるか見せないかを徹底的に観察します。また、見せた場合には、どのくらいの頻度で見せるか、あるいは時間が経つにつれて強化されるのかあるいは制御されるのかに着目します。まったく見えなければその応募者が思考できる人である可能性が高まり、それらの行動が繰り返されたり、時間と共に強化されたりした場合には、その応募者が思考できない状況にあることはほぼ間違いないと推察できます。

 

これらの行動は、有事の時により多く出現するので、アセスメントでの発出頻度はかなり高くなります。訓練されたアセッサーならそれを拾い上げていくのはそれほど難しいことではないので、アセスメントで思考力を識別するにはこのやり方が最も合理的で精度を確保しやすいのではないでしょうか。また、通常の採用選考の場面でも、これらの行動は他の行動よりも目立つので、同じやり方で思考力を見極めることは可能だと思います。

 

あの「アセスメントミス事件」を思い起こしてみると、私はアセスメントの合間に設けられた平時の場面で、精神的に自立しない人の典型的な行動である「頷きの繰り返し」をはっきりとキャッチできたのです。しかしあの日の私は、その前に当該応募者の発言内容に反応してしまい、彼を思考力の持ち主であると誤認した状態で、思考力の欠如を示すあの行動に接しました。そして、その貴重な行動情報を尊重する意識が、「賢そうに見える発言」への執着に押しつぶされ負けてしまいました。アセスメントのしくみへの信頼を高めるあまり、アセスメント外で見えた情報を少し軽視していたのかもしれません。

 

精神的に自立しない人によく見られる行動群をつぶしていくことで思考力の持ち主を浮かび上がらせるこの手法は、あの時の私のように余計な情報に惑わされたりせず、静かな心で対象に向き合うことさえできれば、アセスメントを使わない通常の採用選考の場でも有効だと思います。

 

思考できる人に見られる行動例

そしてもう一つの方法は、「思考できる人の行動」を探していくやり方です。当然ながら前述の「思考できない人の行動」の裏表になるものが多くなります。「求める行動を探そうとしたとたんに前のめりの感情が観る人の目を眩ませる」というリスクについては何度か述べてきました。下に「思考できる人によく見られる行動例」のチェックリストを載せますが、これらの特性を持つ人を探すような取り組みは、期待に引っ張られた論理誤差を招きやすいので望ましくありません。あくまでリスクマネジメントの確認として二次的に使われるべきだと思います。

 

このリストに示された行動群にはある共通点があります。どちらかと言うと、派手な動きを抑えた、重く静かな行動が並びます。自己執着が招く心のざわめきとは無縁の人が、やるべきことに自然に向き合って外連味なくエネルギーを投入する行動なので、無理や無駄がありません。「静かな逸材」は、常に自然体です。

 

<チェックリスト> 思考できる人によく見られる行動例

採用面接にて

✓ 挨拶に力みや堅苦しさが無い

✓ 強い緊張感を見せながらもグタグタにはならない

✓ 話しやすさを感じるような開放的な表情を見せる

✓ 余計なことを言わない

✓ 反応行動が自然で、分かった時だけ相槌や頷きを見せる

✓ 可笑しくないときには笑わない(愛想笑いが少ない)

✓ 過剰な媚や迎合を見せない

✓ 過剰な敬語は使わない

✓ 言葉の使い方がシンプルで、語尾に無駄なものをつけない

✓ 前置きや言い訳をしない

✓ 話が端的で、言いたいことがよくわかる

✓ わからないことやできないことを正直に言える

✓ 概念的な質問に対して逃げず怯まず思考で対応できる

✓ 知識を求める質問には即答するが思考を求める質問には答えるまでに時間がかかる

✓ 質問の意図を的確にキャッチしてくれる

✓ 相手に伝えたい気持ちを前面に出し、わかりやすく話そうとする

✓ 自然な身振り手振りが多くなる

 

グループワークにて

✓ 背筋が伸びて姿勢がよく、取り組みに熱が入るほど前傾になる

✓ 余計なことを言わず無駄なことはせず、与えられた課題に外連味なく向き合う

✓ 表情や言動が開放的で、他者との間に壁を作らない

✓ 他のメンバーが発した情報を漏れなく拾い、一旦自分の中に取り込む

✓ 利害相反の状況の中で葛藤状態に入ることができる

✓ 取り組みに苦悩が滲み、発信が重い 

✓ 情報の集積や統合に時間がかかり、発信の機会は制御される

✓ 発言責任への意識が強いため、発信の機会が制御される

✓ 議論の流れと自説の内容との整合性を気遣って発信の機会が制御される

✓ 自分の発信ボリュームと全体とのバランスを気遣って発信の機会が制御される

✓ いかなる場面でも自分のペースを守ることができる

✓ 内向(思考)と外向(他者の意見を受容する)を繰り返す

✓ 時間の経過とともに言動が活性化し、生産性が尻上がりとなる

 

その他の場にて

✓ 言動や表情やテンションがいつ見ても変わらない

✓ 説明会では発言者の顔を見て話を傾聴し、要点だけさっとメモをとる

✓ どんな人に対しても自然で丁寧な態度で接する

 

※ 思考できる人は、このような特性を有していることが多いのですが、この特性を持つ人を探すようなアセスメントを行うことは、期待に引っ張られた論理誤差を招きやすいので望ましくありません。あくまでリスクマネジメントの結果の確認として使ってください。

※ このチェックリストの無断転載をお断りします。

(後編に続きます)

東京の世田谷に生まれ(昭和35年)鎌倉に育ちながら、高校卒業後に関西へ流れ、大学卒業時には立派な関西弁を話せるまでに成長する。大学で体育会ラグビー部に足を踏み入れるも、タックルが出来なくて干され、徹夜のバイトが監督にばれて干され、と、「なんちゃってラガー」への道をまっしぐら。4年生でやっと公式戦への出場がかない、初出場の日の前夜は、ジャージーを抱いて泣きながら寝た。卒業後に入った商社で、早速、語学難民となり、「このまま日本に置いておいてもこいつは英語を覚えない」と当時の事業部長に判断されて、入社後1年も経たないうちに香港の現地法人に飛ばされる。現地の英国人達とプレーする中でようやく面白くなり始めたラグビーの合間に仕事も少しだけ頑張る、という充実の日々を送り、バブルもはじけた平成2年の春に5年間の任期を終えて帰国。その後、いわゆる大企業の海外部門を転々とするが、会社と仕事が肌に合わず、日に日に心が萎んだ。ついに重度の抑うつ状態にまで陥ってしまったが、そこに至ってようやく「自分の強みは本当に『国際』『語学』なのか?」「本当に自分の良さを活かせる仕事は何なのか?」というテーマに、正面から向き合うことになる。「世間からの評価」への執着を断ち切り、自分の価値観に正直になって新たなフィールドを選んでからは、心の元気を取り戻し今に至る。37歳の時に入社した人事系のコンサルティング会社でアセスメントセンターに出会って惚れ込み、これを生涯の仕事とすることを決意。39歳の時に今の会社を設立した。歳をとっても痛くて苦しいことが大好きな「変なおじさんたち」が集う中年ラグビーチーム(不惑倶楽部)に所属していたが、50を前にして捻挫をこじらせ距骨壊死というややこしい状態に陥って離脱。10年間手術を公言し続けるも諸事情で実現せず「切る切る詐欺」と揶揄されてきたが、還暦を直前に控えた2019年の暮れに突如人口距骨への部品交換を決行した。「これでラグビーもゴルフもばっちりだぜ!」と、元々の技量と加齢という現実を忘れて妄想中。

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