╂ 処方箋の解説 ⓬ ┛ うちはまだ新卒採用なんて

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新卒採用を始めたいのですが、うちはまだそんな会社ではないような気もして迷っています。

世の中の価値観やしくみが変わった今、もはや新卒採用への壁などまったくありません。

 

 

 

新卒採用は大きい会社がやるもの?

少し前までは、「新卒採用は大きな会社がやるもので、小さい会社は中途採用が主体」のような空気が確かにありました。でも今では、小さい会社が新卒採用をできない理由が見当たらなくなりました。

 

採用アセスメントを内製化していただいたお客様の七割が従業員百五十名未満の中小企業ですが、どの会社も毎年多くの選考母集団を集めて新卒採用アセスメントを実施しています。一回の説明会に百人前後の学生を集める企業も何社かあります。五社ほどある従業員が十名以下の会社も、十名~二十名規模の説明会を何度も実施し、通過者が出るまで採用アセスメントを繰り返しています。

 

このような姿を見慣れてしまっている一方、セミナーなどで初めてお会いする経営者の方から、「うちはまだ新卒採用に踏み切れる会社ではなくて」などと言われることが多いのも事実で、その度に、まだ旧来の通念に縛られている社長さんがたくさんいらっしゃることを再認識します。そんな社長さんたちの主な懸念点は、「うちに応募してくれる大学生などいないのでは」「採用した人をきちんと教育できる体制ができていないのだが」「忙しくて新卒の新人が育つまで待っていられない」の三つです。

 

うちに応募してくれる大学生などいないのでは

「学生が応募してくれるのだろうか」と心配になる気持ちはわかりますが、実際に多くの学生を集めている小さい会社を日頃から見ているので、「大丈夫です」としか言えません。それらの会社には、「社長が真面目に新卒採用に取り組んでいること」という素晴らしい共通点はありますが、それ以外はどの会社も至って普通の会社です。規模だけでなく、立地や業種や職種などが若い人に好かれないのでは、と思われる会社でも、アセスメントの実施に向けて必ず十名以上の学生を集めます。私は、今の日本に学生を集められない会社などほとんどないのではないかと思っています。

 

前述のように、今の大学生の中では、「大きい会社が良い会社」という通念的価値観が昔より遥かに薄くなっているように思います。私が日々目にしている大学生たちに、零細企業に応募する事への心理的障害は全く窺えません。また、ここ十年で新卒の大学生を非正規雇用しようとする会社が増えたことも、正社員募集を掲げる小さい会社の地位を相対的に高めているように思えます。秋口になると、内定が採れないことに焦った学生たちが、派遣や契約社員の募集に流れていきます。そんな中、彼ら彼女たちに正社員として社会人のスタートを切るチャンスを提供できる会社の社会貢献度は高いと思います。

 

今では、あらゆる業種のあらゆる中小企業が、○○ナビなどの就職ポータルサイトを使って学生を集め、独自の新卒採用説明会を開催しています。まずは合同説明会に参加してみるのもよいでしょう。就職サイトを使いたくなければ、人材紹介会社を使うという手もあります。最近は、多くの人材紹介会社が新卒紹介に力を入れています。成功報酬として紹介手数料を支払うシステムなので、より多くの選考母集団から少人数を激戦して選びたい場合には、利用価値が高まります。

 

「応募者集め」の不安が新卒採用を躊躇する理由になる時代ではなくなったようです。

 

採用した人をきちんと教育できる体制ができていないのだが

何か月もかけてのんびりと集合研修などを実施できる大企業とは違い、そもそも中小企業には新人をじっくり教育する余裕などないはずです。最小限の知識を叩き込んだらすぐ現場に出してOJTで鍛えるというのが、中小企業の新人教育の現実でしょう。そして、それは決して悪いことではないと思います。

 

新人教育とは何なのでしょう。前述の「経験知 × 仕事力=生産性」という重要公式を思い出してみてください。仕事の質や価値を決めるのは「仕事力」の部分です。いわゆる仕事人格です。大学を卒業して社会に出た人間のこの部分はもう出来上がっていますので、もしここに働きかけることが新人教育であると考えている企業があるとすれば、それは誤りです。思考しない人に「思考しろ」と言うのは、今まで積み上げてきた心の特性を変えろというのと同じです。いつもほどほどのエネルギーしか出力しない人に、「全力で取り組め」と言ったところで、人の価値観は簡単には変わらないのだから無意味です。大企業が長い時間をかけてOFFーJTの新人研修を施す時、もしかしたら「その部分」を変えたい(高めたい)という狙いもあるのかもしれませんが、だとしたらそれは無駄な取り組みだと思います。人が二十年以上かけて脈々と築き上げてきたものを、会社の研修や教育で変えてやろうなどと考えるのは傲慢すぎます。

 

新人に対する教育の中で、新人に与えなくてはいけないものは、新人がそれまで持ち得なかった知識だけです。その人の仕事力が高ければその知識には息吹が吹き込まれ、仕事力が足りなければその知識はうまく使われない、それだけのことです。だから、教育のことなどを心配する前に、中小企業の経営者は仕事力の高い学生を採ることだけを考えるべきです。繰り返しになりますが、人の仕事力は教育や研修によって変容するものではありません。

 

新人に知識を与えるなら、OJTで十分です。必要なのは、「こいつを一人前にしたい」という教える人の熱意だけで、とりたてて「教育体制」などと構える必要は全くありません。もし、「教育体制ができていない」と思う理由が、「うちには新人について仕事を教えられるような人間がいないから」ということだったとしたら、それは新卒採用云々以前の問題です。

 

忙しくて新卒の新人が育つまで待っていられない

もしかしたら、これが一番高い壁かもしれません。

 

「中途は即戦力、新卒は時間がかかる」という考え方も、やはり古い通念と言わざるを得ません。しつこいようですが、再度、あの重要公式「経験知 × 仕事力=生産性」に登場してもらいましょう。

 

まずは、「中途採用では即戦力が期待できる」という観念から疑ってかかる必要があります。中途採用で入社してくる人の経験知が新卒よりも高いことは間違いありません。でも経験知が豊富でも仮に仕事力がゼロなら生産性はゼロです。中途採用の際、経験知が生きるだけの最低限の仕事力が担保されるのかと言えば、そんな保証はどこにもありません。経験知がいくら豊富でも、仕事力が低いレベルにあれば、即戦力どころか未来永劫戦力にはなりません。「実際に中途採用市場にいる人の仕事力がどうなのか」については、次の項でじっくり説明しますが、とにかく「中途採用すれば即戦力が手に入る」などとお気楽に信じていると、必ず痛い目に遭います。

 

一方、新卒の大学生の「経験知」は、ほぼゼロと言ってよいでしょう。しかしそれは、入社後確実に膨らんでいきます。その人の仕事力がしっかりしているならば、ある程度時間が経てば生産性が計算できるようになります。よほどの高度専門分野でなければ、そうなるまでにそれほどの時間を必要としません。仕事力の高い大卒新人は、一年もあれば仕事力の低いベテランをいとも簡単に抜き去ります。「それなら経験と仕事力とを備え持つ人を中途採用すればいいではないか」と言われそうですが、それがそれほど簡単ではないことも、⓮でお伝えしようと思います。大学生の仕事力に向き合う採用さえ心がければ、「新卒採用をすること」と「即戦力を求めること」とが、トレードオフ(一得一失)の関係になることはありません。

 

新卒採用を実施する最大のメリット

一部で「新卒一括採用不要論」なども囁かれているようですが、それでもやはり新卒採用にはメリットが大きいと思います。「社内の年齢バランスを均一に保つことができる」「愛社精神の高い社員を育てられる」「効率的に大量採用できる」などの世の中でよく言われるメリットの他に、もっと大きな「良いこと」があります。一人の人間にとっての「はじめての会社」になるのだという責任感の高まり、初めての新卒採用で内定を出して翌春を迎えるまでのむずむずするような高揚感、そして四月につい最近まで学生だった若者を社員みんなが温かい先輩面で迎える一体感、新卒採用に踏み切った会社だけが味わえるあの感じが、会社を一段高い場所に持ち上げてくれるような気がするのです。

 

「新卒採用できること」は、今やステイタスでも何でもなく、人を採用できる体力のある会社なら、どんな会社でも新卒採用企業になることができます。でも、そこに踏み切りさえすれば、会社が少しだけ大人になります。私は、一人でも多くの社長さんに、あの幸せな緊張感を味わって欲しいと思っています。

東京の世田谷に生まれ(昭和35年)鎌倉に育ちながら、高校卒業後に関西へ流れ、大学卒業時には立派な関西弁を話せるまでに成長する。大学で体育会ラグビー部に足を踏み入れるも、タックルが出来なくて干され、徹夜のバイトが監督にばれて干され、と、「なんちゃってラガー」への道をまっしぐら。4年生でやっと公式戦への出場がかない、初出場の日の前夜は、ジャージーを抱いて泣きながら寝た。卒業後に入った商社で、早速、語学難民となり、「このまま日本に置いておいてもこいつは英語を覚えない」と当時の事業部長に判断されて、入社後1年も経たないうちに香港の現地法人に飛ばされる。現地の英国人達とプレーする中でようやく面白くなり始めたラグビーの合間に仕事も少しだけ頑張る、という充実の日々を送り、バブルもはじけた平成2年の春に5年間の任期を終えて帰国。その後、いわゆる大企業の海外部門を転々とするが、会社と仕事が肌に合わず、日に日に心が萎んだ。ついに重度の抑うつ状態にまで陥ってしまったが、そこに至ってようやく「自分の強みは本当に『国際』『語学』なのか?」「本当に自分の良さを活かせる仕事は何なのか?」というテーマに、正面から向き合うことになる。「世間からの評価」への執着を断ち切り、自分の価値観に正直になって新たなフィールドを選んでからは、心の元気を取り戻し今に至る。37歳の時に入社した人事系のコンサルティング会社でアセスメントセンターに出会って惚れ込み、これを生涯の仕事とすることを決意。39歳の時に今の会社を設立した。歳をとっても痛くて苦しいことが大好きな「変なおじさんたち」が集う中年ラグビーチーム(不惑倶楽部)に所属していたが、50を前にして捻挫をこじらせ距骨壊死というややこしい状態に陥って離脱。10年間手術を公言し続けるも諸事情で実現せず「切る切る詐欺」と揶揄されてきたが、還暦を直前に控えた2019年の暮れに突如人口距骨への部品交換を決行した。「これでラグビーもゴルフもばっちりだぜ!」と、元々の技量と加齢という現実を忘れて妄想中。

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