╂ 処方箋の解説 ❾ ┛ 四年目の壁(前編)

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新卒で大量採用した社員が「四年目の壁」にぶち当たってしまうのは何故でしょうか。

大企業のしくみに守られていた高学歴者が、初めて未知領域に放り出される時期だからです。

 

 

 

 

「大企業向きではない」と思っていた採用アセスメント

創業から十数年間、私たちの仕事の対象は中小企業の経営者に限られていましたが、数年前に初めて大企業の採用支援を行う機会に恵まれて以来急に大企業からの依頼が増え、今では当社の顧客の三分の一を従業員五百名以上の大規模企業が占めるようになりました。

 

私が「社員一人の持つ意味が重い会社」を支援したいと思って今の会社を立ち上げたこともあり、採用支援の分野では、一つの採用ミスが会社のその後に大きく影響を与えてしまいかねない小規模企業での採用アセスメントを得意としていました。

 

そもそも、採用アセスメントを通過する学生がとても少ないので、問題行動を起こすリスクが見えた学生を全て排除するような徹底したリスクマネジメントを実践できる会社は、一名から数名の採用に留まる中小企業に限られてきます。それでも一人の合格者を見つけようと思えば、二十人から三十人をアセスメントしなくてはなりません。何十人も、あるいは百人以上の内定者を確保しなくてはならない大規模企業で妥協なきリスクマネジメントを実践しようとするのはどう考えても現実的ではないでしょう。百人に内定を出そうと思ったら、二千人から三千人をアセスメントしなくてはならなくなるのですから。そんなわけで、私たちの採用アセスメントは、大企業とは縁のないものだとずっと思っておりました。

 

思考力が必須な中小企業と学力で何とかなる大企業

そして、私が、自分たちの採用アセスメントを大企業の採用向きではないと考えていた理由がもうひとつあります。

 

私たちの採用アセスメントの採用基準は「マネジメント領域で動く事ができる人」であり、そのために必要な思考力を重視しています。未知の領域であるマネジメント領域では、それまでに学んだ経験知をそのまま当てはめることができません。したがって、そこで自力で動くためには、その時入手できる情報をできるだけ数多く集めて、「問題の全体像」「今どんな状況なのか」「自分はまずどう動けばよいのか」「どこへ向かえばよいのか」のようなそれまでには無かった概念を産み出す力が求められますが、この力こそが思考力です。

 

中小企業に入社した新入社員は研修もそこそこに現場に出されます。もちろんOJTはあるにしても、マニュアルなどが整備されていないところも多く、頼るべきものがあまりありません。入社早々、未知領域だらけになるわけで、ゆえに思考力が必要になります。中小企業に入社した人の評価は、「一人で動ける奴」か「一人では何もできない奴」かの両極に二分されます。一人で動ける新入社員をゲットするためには、何が何でも採用時に思考力を見極めなくてはなりません。きちんとした思考力を持つ学生は採用市場の中でもほんの一握りしかおらず、その希少性が、前述のアセスメントの通過率となって顕れます。その、数パーセントしか存在しない力の持ち主を探し出すことが私たちの採用アセスメントの得意とするところであり、私たちのアセスメントが中小企業と相性がいい理由はそこにあります。

 

一方、大企業は、大人数の社員を擁し、毎年多くの新入社員を採用するので、どうしても個々の質的生産性には差が生まれます。一方、多数のステイクホルダー(利害関係者)に対して常に一定水準以上のアウトプットを示す責任を大企業は負っています。だから、大企業には、関わる社員の質によって生産性が大きく左右されないようにプロセスを標準化するためのしくみがあるのです。それが大企業の最も凄いところであり、大企業はそのしくみを存続への命綱にしているとも言えるでしょう。マニュアルだったりシステムだったり、その会社が積み上げた経験知のすべてがしくみとなって、未知の世界で迷うことのないように社員を守ってくれるので、新入社員が未知領域で迷子になることは、中小企業に比べると圧倒的に少ないと思います。だから、思考力に欠ける新入社員でも、大きな綻びを見せることなく何とかその場その場を切り抜けていけるのではないでしょうか。

 

大企業のしくみは、未知の領域を減らし、作業領域を増やしてくれます。作業領域で求められる情報処理は、保有情報の運用です。言い換えれば「情報を覚えて蓄え、そのままの形で出す」という形の情報処理で、これを私たちは、学力的情報処理と呼んでいます。日本の学校教育においてはこのタイプの情報処理力が鍛えられ、学力が高く受験勝者になれるような人は、膨大な情報を驚くべきスピードで出し入れできるようになります。だから、偏差値の高い大学を卒業した人は、作業領域において優位性を示すのです。広い作業領域を用意できる大企業が、しくみを速くたくさん覚えてくれる偏差値の高い大学の学生を躍起になって確保したがるのは、ある意味、理にかなっていると言えるでしょう。

 

私は、「大企業には、思考力の低い新入社員が入っても中小企業ほど問題にならない構造がある」「だからどの大企業も思考力よりも学力を追い求めることを止めないのだ」と、ずっと思っていました。そしてもう一つの思いも控えめにではありながら維持されていました。「しくみが勤続疲労を起こしたら、誰がそれに気づき、誰がそこに手を付けるのだろう」

(後編に続きます)

東京の世田谷に生まれ(昭和35年)鎌倉に育ちながら、高校卒業後に関西へ流れ、大学卒業時には立派な関西弁を話せるまでに成長する。大学で体育会ラグビー部に足を踏み入れるも、タックルが出来なくて干され、徹夜のバイトが監督にばれて干され、と、「なんちゃってラガー」への道をまっしぐら。4年生でやっと公式戦への出場がかない、初出場の日の前夜は、ジャージーを抱いて泣きながら寝た。卒業後に入った商社で、早速、語学難民となり、「このまま日本に置いておいてもこいつは英語を覚えない」と当時の事業部長に判断されて、入社後1年も経たないうちに香港の現地法人に飛ばされる。現地の英国人達とプレーする中でようやく面白くなり始めたラグビーの合間に仕事も少しだけ頑張る、という充実の日々を送り、バブルもはじけた平成2年の春に5年間の任期を終えて帰国。その後、いわゆる大企業の海外部門を転々とするが、会社と仕事が肌に合わず、日に日に心が萎んだ。ついに重度の抑うつ状態にまで陥ってしまったが、そこに至ってようやく「自分の強みは本当に『国際』『語学』なのか?」「本当に自分の良さを活かせる仕事は何なのか?」というテーマに、正面から向き合うことになる。「世間からの評価」への執着を断ち切り、自分の価値観に正直になって新たなフィールドを選んでからは、心の元気を取り戻し今に至る。37歳の時に入社した人事系のコンサルティング会社でアセスメントセンターに出会って惚れ込み、これを生涯の仕事とすることを決意。39歳の時に今の会社を設立した。歳をとっても痛くて苦しいことが大好きな「変なおじさんたち」が集う中年ラグビーチーム(不惑倶楽部)に所属していたが、50を前にして捻挫をこじらせ距骨壊死というややこしい状態に陥って離脱。10年間手術を公言し続けるも諸事情で実現せず「切る切る詐欺」と揶揄されてきたが、還暦を直前に控えた2019年の暮れに突如人口距骨への部品交換を決行した。「これでラグビーもゴルフもばっちりだぜ!」と、元々の技量と加齢という現実を忘れて妄想中。

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