明日から「二週間で社内アセスメント五本」の強行軍が始まる。今週はアセスメント会場に近い「芝パークホテル」に宿泊する。
このホテルは東京タワーに近い。僕は東京タワーが大好きで、自然とそこに吸い寄せられる傾向がある。特に夜の東京タワーの、あのオレンジ色は心を穏やかにときめかせてくれる。時々イベントなどで違う色にライトアップされることもあるが、やはりあの「オレンジ色」が最高だと思う。
雨上がりの霧の中で浮かび上がる今日の東京タワーは、実に幻想的 …
「芝パークホテル」を知ったのは、今から十六年前の春だったと思う。当時担当していたオーストラリアの会社の社長が来日し、僕がアテンドした。夕食を終え、その社長に連れてこられたのがこのホテルだった。
「ラグビーをやってるのにこのホテルを知らないのか … 」
ワラビーズ(ラグビーのオーストラリア代表チームの愛称)の国からやってきた彼は、このホテルが昔からラグビー関係者との繋がりが深いホテルであること、世界中の代表チームがこのホテルをよく利用すること、そしてホテルバーの名前が「フィフティーンズ」であること、を教えてくれた。
「フィフティーンズ」のウェイティングルームは、ラグビー関係の写真やグッズが壁一面に飾ってあった。やはり英国人ラガーで溢れていた香港のバーと同じ匂いがした。スコッチを飲みながら、笑顔の優しい初老の紳士とラグビー談議に夢中になったその夜のことは、今でも鮮明に覚えている。
その後、僕はちょくちょくこのホテルを利用するようになった。ひとりで格好付けながら飲みたくなる夜はここに来て、ロックの氷を指でかきまわした。少し危ない。不惑倶楽部で秩父宮での大きな試合に出場する前の日には、必ずここに泊まった。「フィフティーンズ」であの日と同じスコッチのグラスを傾けながら明日の試合に向けて気合を入れるために。
今日も、明日からのアセスメントに向けて鋭気を養おうと、いつもの席に座る。
そして今日も、店内では「体の大きな」外国人紳士たちが、日本人にはなかなか見られない開放的な笑顔を振りまいていた。
閉店間近までその空気を楽しんだ後、もう一度東京タワーを拝みたくて外へ出た。
腕時計が十二時を指す。オレンジの灯がろうそくの炎のようにフワッと消え、そのあとを湿った暗闇が覆った。