連日、「派遣村」の報道が溢れている。そして、連呼される「派遣切り」というワード。
もうすっかり耳に慣れてしまった「派遣切り」だが、「派遣切り」とは何なのか、そこで何が起こっているのか、を、果たして世間がどれくらい理解しているのだろう?
派遣会社と派遣先企業との間には、「派遣契約」がある。多くの場合、その契約には、「何かあったら一ヶ月前に告知すれば契約を解除できますよ」という条項が含まれている。今回派遣切りを行なった会社のほどんどは、この条項を盾に取り、「契約に従って合法的に事を進めた」わけだ。
一方、その告知を受けた派遣会社が契約満了以前に派遣労働者との労働契約を解除すると、それは「解雇」となる。
つまり、「派遣切り」においては、派遣先企業の「契約解除」は「合法」であるのに対して、派遣会社の解雇は、突き詰めればほとんどの場合不当解雇となるはずで、「非合法」となってしまう。
今、この部分が 企業が派遣を使う大きな「メリット」のひとつになってしまっている。企業とすれば、「この解雇リスクを派遣会社にとってもらうために毎月高い金を払っている」という意識があるから、今回も「契約で定められた権利を行使して何がわるいのよ」てなもんだろう。そしてこの「不平等条約」がある以上、派遣会社は派遣先企業に、「せめて契約期間は満了してください。」とは言えない。
いざという時、派遣会社は「他の派遣先を探すなどして契約期間を雇いきる」か、「訴訟を起こされるのを覚悟で解雇する」か、を選ぶしかない。前者が難しいこのご時勢、多くの場合後者が選ばれる。
今回のような「仁義無き派遣切り」が横行する最大の原因は、「企業側が一ヶ月前に契約を解除できる権利を持っていること」であり、その背景にあるのが「このような不平等条約を飲まなければならないほどの派遣会社のアイデンティティーの低さ」と「おのれのリスクをヘッジするために『弱者』を徹底的に利用しようとする大企業の生理」であることは間違いない。
訴訟が起こされなければ「法令違反」が健全化しない不条理。
泣き寝入りする被害者が絶対多数になっていることで何となくバランスが取れている「解雇をめぐる現状」。
その現状を最大限利用して何とか安泰を保てる派遣会社。
日常の取引が、法令違反の絡むいびつな構造に立脚していてもお構いなしの大企業。
いろいろなものが重なり合って、それぞれの自己都合と甘えに満ちたグレーな世界が作られている。
「雇用契約を守る」という当たり前のことが派遣契約においてゆがめられる可能性を排除すること…
企業と派遣会社との関係の現状を鑑みると極めて難しいことではあるが、これが実現されない限り、派遣会社が大企業に食いつぶされて全滅するまで「派遣切り」は続く。