若い頃には新入社員研修の意義を疑問視していた部分もあった私でしたが、コンサルティング会社の新人時代に自分が新入社員研修を担当することになって、考えが変わりました。ただ知識を教えて実践させるだけではなく「なぜそうしなければいけないか」を考えさせる独特なプログラムに触れ、その仕事をとても「意義あるもの」と感じたのを覚えています。
今の会社を長野県諏訪市で設立してしばらくは、地元の商工会議所から頼まれて、毎年、集合新人研修の講師をやっていました。新卒の採用人数が少ない中小企業の新入社員を集めて実施するのですが、当時は普段仕事で接する人が経営者や管理職ばかりだったので、いろんな会社からやって来たいろんなタイプの若者と接するのが新鮮でした。ビジネス上のマナーや常識などは、学ぶべき時に学ばないと、「大事なことを知らないままずっと仕事人生を送っていく」ということになりかねません。新卒を採用する企業には、「教えるべき時に、教えるべきことを教える場を作る」という最低限の責務があります。
会社を東京に移してからは新卒採用アセスメントの仕事が増え、4月はその繁忙期にあたるので、新入社員研修の機会は激減してしまいました。その仕事には思い入れがあるので少し寂しい思いをしていましたが、昨年初めて新卒採用に踏み切ったクライアントさんが多いため、今年は何件かの新入社員研修を4月のスケジュールに割り込ませることができました。張り切って久しぶりにレジュメの改訂を行い、その表紙には、「合理的思考に基づくビジネスマナー」と書きました。
情報が氾濫し、人の考え方や価値観が多様化している今、唯一の正解を携えて突き進むと痛い目に合います。ビジネスマナーにも、もはや絶対的正解はありません。接する人を不快にしないためにビジネスマナーが必要なのですから、「電話応対」でも「ビジネスメール」でも「敬語」を選択する際にも、「もしかしたらこの人が不快になるかも」という可能性はとことん排除すべきです。そのためには、どんな場合でも綻びを生まない高度な集約的正解が求められ、かつその正解を真っすぐ運用してよいものか毎回毎回「思考」を巡らせなくてはなりません。対人場面を作業化することは、いかなる場合でも許されないのです。
考えて考え抜いた結果、その場における最高のビジネスマナーが生まれます。入社早々にそのことを学べるのは、その人にとってとても幸せなことだと信じています。