お客様のところで出してもらったコーヒーに「クリープ」がついていた。僕はそのクリープをコーヒーに入れて飲んだ。多分、お客さんのところでコーヒーに何かを入れるのは初めてだ。話していた社長も「今日は入れるの?」みたいな感じだった、ように思えた。
僕は一日に十杯前後はコーヒーを飲む。基本的にはブラックで飲むのだが、「生クリーム」がついていると、半分くらい飲んだところで入れる。コーヒーの縦をつく香りが届く前の鼻腔が、乳脂肪の横に広がる甘いにおいで覆われる瞬間が素敵だ。
この感じは、「乳脂肪分」が高い生クリームでなければ得られない。乳脂肪分が五%にも満たない牛乳では駄目である。ましてや植物性のクリームなど入れると、僕にとっては「異物混入」になってしまう。
ところが、今世間で使われているポーションやパウダーのほとんどは植物性である。僕の知っている限りでは、動物性の(乳脂肪分の高い)コーヒーパウダーは「クリープ」しかない。クリープを入れると、生クリームを入れたときに準じた感覚を味わえるのだが、世間の健康志向の表れなのか、最近僕は、コーヒーにクリープがついてくる場面にあまり出会わない。
十五年ほど前、ある会社での支店長時代に初の部下になった女性の勤務初日のこと。日用品の買い物に行こうとしていた彼女に僕は「コーヒークリームはクリープにしてね」とお願いした、らしい。おまけに、「乳脂肪分」について熱心に説いた、らしい。ついでに「アイスクリームは八%以上、それ未満はアイスミルク🍦」などとアイスクリームの乳脂肪基準に関する知識まで披露した、らしい。
「私の初仕事はスーパーでクリープを探すことだった」と、彼女は後々まで周囲の笑いをとっていた。まあ、よく初日で辞めなかったものだ、と、今は思う。
美味しいコーヒーをゆったりした気分で楽しめる、銀の容器になみなみと注がれた生クリームがコーヒーに寄り添って出てくるような、、昔ながらの喫茶店やコーヒー専門店がめっきり減ってしまった。SやTやD系のE、など、エスプレッソベースのコーヒー主体の店にはどうも足が向かない。そもそも機械から出てくるコーヒーを飲む気がしない。
特に諏訪は喫茶店の数自体が少なくて寂しいのだが、そんな中で貴重な存在となっているのが、マックとミスドだ。
「マックのコーヒーは実は美味しいよ」は、ずいぶん巷で囁かれていたが、「プレミアムローストコーヒー」になってから本当に旨くなった。Sサイズ120円であれだけのものが飲めれば大満足である。一見コーヒーの味などに無関心な客層がコアになっているように見えるマックで、コーヒーに訴求力を植えつけたマックの新規顧客層開拓戦略はすごい。マック恐るべしだ。
ミスドが最近コーヒーをリニューアルしたことも僕にとっての大きな朗報である。「ミスドプレミアムブレンドコーヒー」の登場は、僕がバイトしていた頃からずっと不変だった「アメリカン」路線に別れを告げたという点で、大革命だと思う。他社に比べて割高感のあった262円という価格が、味が格段にあがったことで一気にリーズナブルに感じられるようになった。
もちろんマックもミスドも、「機械製」ではない。ピッチャーに入ったコーヒーには安心感を覚えるなあ。
諏訪のマックとミスドでは、場違いなおじさんが、夜な夜な一杯のコーヒーを求めて現れる ☕