私とアセスメント その6  「能力開発」

私とアセスメント その6  「能力開発」

審査だけのアセスメントから、受講者に「受益」を感じてもらいながら進めるアセスメントへのシフトが進むにつれて、受講者の「感情」に触れることができる瞬間に、たくさん立ち会うことができるようになりました。

  

アセスメントの終了後に、受講者に「能力傾向」をフィードバックする機会が増えました。いろいろな会社で、いろいろな人たちにフィードバックをする中で、実にいろいろなことがわかってきました。

 

 

💡 アセスメントの評価が低い人(対象に向き合う力が弱い人)は、当然ながら「フィードバック」に向き合う力も弱い。

💡 受講者に「弱み」をこれみよがしに伝えたところで、弊害こそあれ、効果などほとんど期待できない。

💡 精神的な自立に起因する「強み」を持つ人は、おしなべてその強みに対する自己認識が欠如している。

💡 その「強み」は、人から理解されにくく、認められにくく、世の中で「強み」と認識されにくいという側面を持つので、多くの人がその「強み」に蓋をしようとしている。

💡 自分がその「強み」の持ち主であることを認識させ、その「蓋」の排除を支援することこそが、アセスメントのフィードバックを行う唯一最大の意義である。

 

 

 

アセスメントで高く評価される人は「本当に仕事ができる人」です。「本当に仕事ができる人」というのは、仕事の質的生産性が高い人であり、「自分で考え自分で動く」を「組織のため」「全体のため」に地道に続けることができる人です。一方、世の中では、「言葉巧みにアピールする人」「情報をとにかく素早く捌く人」「とにかくエネルギーを発散する人」など、ぱっと見がいい人が「仕事ができる人」と見なされがちなので、「静かな本物」は往々にしてそれらの影に隠れます。そしてその「本物」たちの多くが、「自分たちは(あの派手な人たちより)劣っている」と思い込まされていくのです。

  

実際にアセスメントのフィードバックでは、そう思い込んでいる「逸材」たちをたくさん見てきました。

 

会社の核たる人材として会社を背負っていけるような潜在能力を持つ若手社員がアセスメントで見つかっても、会社がその人に全く光を当てていなかった、というようなことは残念ながら日常茶飯事です。そんな逸材が、自分の本当の優位性を活かせない場所にいることを余儀なくされ、「その他大勢」に属する目立たない人物となって、組織に埋没していたのです。そしてそのような人の多くが、「しゃべりがうまい」「押し出しが強い」「器用な」同僚、先輩、そして後輩たちに、劣等感を抱いています。自分が類い稀な優位性を有していることなど、誰も教えてくれないのですから認識できるはずもありません。

 

「自分はあれこれと考えるからいけないんです」と自らの素敵な特性を嘆き、「僕もみんなのようなスピードや器用さを学ばなくてはいけないと思っています」などという的外れな自省にまで至る無数の「逸材」と接してきましたが、このような人たちに、自分の優位性を、そしてそれが希少価値まで持つことを伝えるのは、とても骨の折れる仕事です。精神的に自立している彼ら彼女たちにとって、「物事に向き合いよく考える」「人の心に寄り添う」ことなど、ずっと当たり前のように取り組んできたことなので、そこを「優位性」だなどと褒められてもピンとこないのです。また、承認欲求や自己顕示欲をあまり持たない人たちなので、「人からどう見られているか」などにはあまり興味が無く、どうしても「褒められること」「認められること」の価値が薄くなるのでしょう。

 

それでも、私の言葉にもしっかり向き合ってくれる人たちなので、時間をかけて伝えると、やがて自分たちの強みについて、そして「勘違い」について、理解してくれます。

 

そしてほとんどの人が、こうつぶやきます。

 

「今のままでいいんですね」

 

 

 

 

希少とも言える「強み」を有する人が、その強みを認識できずに封印しようとしていると判明した時、状況を好転させてその人の仕事人生に輝きを吹き込み、そして会社の機会損失を未然に防ぐためには、その人の心の奥に向けた何らかの強烈な働きかけが必要です。

 

多くの経営者が「人が一番大切」と口にします。そして、「能力開発」という概念にこだわり(その言葉の響きに惹かれ)、そこに注力しようとします。しかし、「能力開発」を会社経営上の大命題と位置付けている割には、実際に何をすればよいのかわからず、形作りだけに大金を投入するようなケースも散見されます。

 

会社が社員に施す「能力開発」なるものがあるとするならば、そう呼ぶに最もふわさしい取り組みは、社員に潜在する「強み」を顕在化させ活性化させることでしょう。自分で自分の潜在能力に蓋をしてしまっている社員を見つけたら、「その蓋を取り去ってしまった方があなたも周りの人も幸せになりますよ」と導いてあげること、そしてそれが可能になるような場所を用意してあげることこそが、唯一無二の「能力開発」なのだと、私は思っています。

 

たかが「社員の強みに向き合ってあげること」を「開発」などと称するのは仰々し過ぎるかもしれませんが、作業に追われる日々の中で、経営者や管理職が社員の能力と向き合うなどということは、現実的には極めてハードルの高い取り組みです。「実はマネジメント能力が高いのに現場で評価もされず埋もれていた」「概念化能力が極めて高いのに定型業務処理に回されていた」などという実にもったいないミスマッチがいたるところで当たり前のように発生するのも、ある意味無理のないことなのかもしれません。普段できないのなら、どこかで「会社が社員の能力に向き合う非日常の機会」が作られれば、そこに極めて生産的な「能力開発」が動き出す可能性が生まれます。

 

会社が行うべき「能力開発」とは、潜在能力を持たない人に刺激を与えて「無から有」を期待するものなどではありません。「そもそもできない人をできるようにすること」や「弱みを矯正しようとすること」を「能力開発」と考える人がいるとすれば、その人は「あまり人に向き合ってこなかった人」かもしれません。人が仕事をするために必要な能力は、命の誕生以来、長い年月をかけてその人の中で培われてきたものです。たかが職場の教育や指導で簡単に変容すると思うなら、それは傲慢というものでしょう。人の「弱み」を変えられるのは、その人自身だけです。会社が無思考に「能力開発」の取り組みを発散する時、本質的にそれを必要としない社員周辺の生産性は、必ずと言っていいほどマイナスになります。「悪平等」の弊害は、その後もくすぶることになるでしょう。

 

適切な「能力開発」が施されるためには、「経営者が社員全員の潜在能力と向き合うこと」が前提となります。その前提を欠いた「能力開発」には、経営者の自己満足の匂いが漂います。

 

 

 

 

「能力開発の原則」に則り、私たちも数年前に「社内アセスメント後の全受講者に対するフィードバック」を、プログラムからはずしました。

 

「能力開発」を必要とする人には、後日何らかの形で個別での働きかけが実施されますが、毎度毎度面白いほどの効果が早々に現れます。一方、フィードバックを廃止したことに起因する生産性の減損は、私の知る限り発生していません。

 

フィードバックの臨床を積み重ねたことで、私たちは「能力開発の原則」を導くに至りましたが、その原則によって、フィードバックの場が無くなりました。この皮肉な因果の中で、私たちは「平等への執着」を断ち切ることを学び、「個」と向き合うことの価値を再確認できました。

 

東京で生まれ(1960年)、鎌倉で育ちながら、京都に憧れて高校卒業後に関西へ流れるが、何故か大阪の大学(関西大学法学部)へ入る。

念願の体育会ラグビー部に足を踏み入れるも、タックルができなくて干され、徹夜のバイトがばれて干され、と、「なんちゃってラガー」への道をまっしぐら。4年生でやっと公式戦への出場がかない、初出場の日の前夜は、ジャージを抱いて泣きながら寝た。

卒業後に入った商社で、早速、語学難民となり、「このまま日本に置いておいてもこいつは英語を覚えない」と当時の事業部長に判断されて、入社後1年も経たないうちに香港の現地法人に飛ばされる。現地の英国人たちとプレーする中でようやく面白くなり始めたラグビーの合間に仕事も少しだけ頑張る、という充実の日々を送り、バブルもはじけた平成2年の春に、5年間の任期を終えて帰国。

「国際人の俺様にはもっと大きい会社がふさわしいのさ」と、わけのわからないことをつぶやきながら、いわゆる大企業の海外部門を転々とするが、会社と仕事が肌に合わず、日に日に心が萎んだ。ついには重症の抑うつ状態にまで陥ってしまったが、そこに至ってようやく、「自分の強みは本当に『国際』『語学』なのか?」「本当に自分の良さを生かせる仕事は何なのか?」というテーマに、正面から向き合うことになる。

「世間からの見られ方」への執着を断ち切り、自分の価値観に正直になって新たなフィールドを選んでからは、心の元気を取り戻し、今に至る。37歳の時に入社した人事系コンサルティング会社で「アセスメントセンター」に出会って惚れ込み、これを生涯の生業とすることを決意。39歳の時に、今の会社を設立した。

50歳近くまで続けていたラグビーだったが、試合で足首をややこしく負傷してしまって以来、プレーをしていない。復帰するには手術が必要で、数年前から「今度手術するんですぅ」とあちこちで触れ回っているが、諸事情で延期が繰り返され、周囲からは「切る切る詐欺」の声が聞こえ始めている。

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